循環器科
犬と猫の心臓病について
人と同様、犬や猫も加齢に伴って心臓病が増加します。
心臓病が進行すると疲れやすい、寝ている時間が増える、咳をするなどの症状がでることもありますが、初期の症状はなく、病院で身体検査を受けて初めて判明することが一般的です。
他の病気と同じく、心臓病でも早期発見・早期治療が重要で、そのためには定期的に身体検査や血液検査を行い、異常が見つかった場合は必要に応じて以下の検査受診をお勧めしています。
- 血圧測定
- 心電図
- 血液検査
- レントゲン検査
- 心臓超音波検査(心エコー) など…
中でも心エコーは心機能の測定ツールとして特に重要で、これらの検査結果をもとに総合的に判断し、治療のご相談をさせて頂きます。
治療は内服薬により進行を遅らせる「内科治療」が主体となります。定期検査により心臓と全身の状態を把握し、適切な治療薬を選択していくことで、なるべく長く・苦しまず・いつも通りの生活を送れること、が最も重要と考えています。
また、日々の生活上の注意点や運動、食事などについてもアドバイスさせて頂きます。
必要に応じてご自宅でも利用できる酸素濃縮器のレンタルや、外科的治療可能な施設へのご紹介も行っています。
まずは身体検査だけ、血液検査だけ、あるいは心エコー検査だけでもご相談可能です。
お気軽にご相談ください。
代表的な循環器の病気
僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘膜水腫様変性、僧帽弁逆流)
犬の僧帽弁閉鎖不全は高齢の小型犬で多く、犬の心疾患のおよそ75%を占めると言われています。チワワやマルチーズ、トイプードルなどで多く認められますが、特にキャバリア・キングチャールズスパニエルでは発症率が高いことが知られています。多くは中高齢で発症し、12歳以上の犬の35%に症状があるとも言われています。
心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしますが、内部は左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部屋に分かれます。そのうち左心房と左心室の間にあり、逆流防止弁として働くのが僧帽弁です。血液は肺で酸素を貰い、左心房、左心室を経て全身へと送り出されますが、僧帽弁に異常が生じると左心室から左心房に血液が逆流するようになります。そのまま進行すると、左心房に血液がうっ滞し、更に肺でもうっ血がひどくなると肺水腫を起こし、呼吸困難により死亡します。
-
僧帽弁閉鎖不全のエコー画像
-
正常な心臓のエコー画像
- 僧帽弁閉鎖不全症症状
- 初期は普通無症状ですが、聴診で心雑音が聴取されます。進行すると、疲れやすくなり、咳やチアノーゼ(舌が紫色になる)、呼吸促拍や呼吸困難を起こします。
ご家庭で心臓の状態を測るモニターとして、最近では安静時・睡眠時呼吸数が注目されています。犬の正常な安静時呼吸数は一分間に十数回ですが、心臓の状態が悪化するにつれて呼吸数は増加し、40回以上では肺水腫が疑われます。興奮や暑さなど条件により変動がありますので、普段の状態と比較してみることも重要でしょう。
肺水腫を起こすと呼吸困難が急速に悪化し、治療が遅れると死に至るため、一刻も早い対処が必要となります。 - 僧帽弁閉鎖不全症診断
- 聴診で心雑音が聴取された場合、レントゲンや心臓エコー、必要に応じて心電図や血圧、血液検査を組み合わせて検査を実施します。このうち、最も正確な心機能検査とされるのが心エコーです。心エコーでは心臓内部の各部屋のサイズ、心筋厚や運動性、血流の異常の有無や血流速を測定します。また、レントゲンでは胸部全体を俯瞰し、心臓だけでなく肺や気管・気管支の評価ができます。
- 僧帽弁閉鎖不全症治療
- 少数の例外を除き、ほとんどの心疾患は慢性進行性で、残念ながら完治は困難です。内服薬により進行を遅らせることが治療の主体となりますが、進行の程度は様々で、どんどん進行してしまうこともあれば、徐々に良くなることもあります。そのため、体調が変わらなくても定期的に検査を実施し、症状が出る前に心臓の負荷を取ってあげることが一つの目標となります。
また、当院ではご希望により外科手術可能な施設へのご紹介も行っています。手術はリスクやコスト面での負担がありますが、成功率は高く、逆流や心臓の負荷を効果的に減らすことができます。 - 僧帽弁閉鎖不全症予防
- 心疾患は加齢により避けられないことが多いと考えられますが、特に心臓病と診断された場合、適切な体重を保ち、塩分(ナトリウム)の多い食事は避けた方が良いでしょう。
拡張型心筋症
拡張型心筋症は中高年の大型犬、超大型犬に認められる心疾患で、ドーベルマンやボクサー、グレートデン、ニューファンドランド、セントバーナードなどに多いとされています。拡張型心筋症は弁膜症とは異なり心臓の筋肉が障害を受け、心筋が薄くなり収縮力を失っていく病気です。心臓は体内に血液を循環させるポンプの役割を果たしていますが、拡張型心筋症が進行すると血液を送り出すことができなくなり(うっ血)、ついには循環不全を起こして亡くなります。
-
拡張型心筋症のエコー画像
- 拡張型心筋症症状
- 初期は無症状ですが、進行すると疲れやすくなる、咳、呼吸困難、食欲低下、筋量低下などの症状を起こします。不整脈を併発することも多く、時に失神や突然死を起こすこともあります。循環不全が進行すると肺に水が溜まる肺水腫や、胸水・腹水が溜まることもあります。
- 拡張型心筋症診断
- 初期は無症状で聴診でも心雑音は聴取されません。早期診断には心筋の障害を検出する血液検査やエコー検査が有用ですが、心機能検査としてはエコーが最も正確です。病気が進行し、心臓が大きくなると雑音が聴取されます。必要に応じてレントゲンや心電図、血圧測定、血液検査を併用します。
- 拡張型心筋症治療
- 弁膜症同様、慢性進行性の病気であり、ほとんどの場合完治は期待できません。内服薬で進行を遅らせることが治療の主体となります。
最近、一部の犬種においてタウリン欠乏や栄養学的な素因が議論されるようになり、タウリンの補給やフードの変更が有効である可能性があります。
猫の心筋症
猫の心疾患は肥大型心筋症が最も多く、メインクーンやラグドール、ブリティッシュショートヘアー、ノルウェージャンフォレストなどの純血種で多いとされていますが、年齢・性別・種類を問わず発症することがあり、猫の15%が罹患しているとも言われています。また、一部は高血圧や甲状腺機能亢進症による二次的・一過性の異常とされます。肥大型心筋症では心臓の筋肉が分厚くなり、心臓の内腔が狭くなります。もっとも多く発見されるのは‘SAM(僧帽弁前方収縮期運動)’と呼ばれる弁の異常で、心雑音の原因となります。肥大型心筋症と診断されても、多くの猫は深刻な状態には至らず寿命を全うしますが、およそ20-30%はうっ血性心不全や血栓症を引き起こします。猫のうっ血性心不全では血栓症を併発することがあり、心臓内にできた血栓が後肢の動脈を閉塞して激しい痛みと後肢の機能不全を起こすことがあります。
-
猫の心筋症のエコー画像
- 猫の心筋症症状
- 多くは無症状ですが、進行するとうっ血性心不全を起こし、活動性の低下や呼吸困難、食欲不振、失神や突然死を引き起こすことがあります。肺の内部に水分が溜まる肺水腫を起こすと急速に呼吸不全が悪化するため、緊急的な治療が必要となります。胸水による呼吸困難や、腹水貯留が認められることもあります。また血栓症を合併すると後肢を痛がり、循環不全のため後肢は固く冷たくなり麻痺状態に陥ります。
- 猫の心筋症診断
- 猫の心筋症は心雑音が聴取されないことあり、進行しないと心拡大も起こらないため、早期の場合は聴診やレントゲン検査では検出できないことがあります。早期診断には心筋の障害を検出する血液検査やエコー検査が有用です。心臓内の状態を最も正確に把握できるのは心エコーですが、必要に応じて心電図検査や血液検査も併用します。
エコーは痛みを伴う検査ではありませんが、台の上で横になってじっとしている必要があるため、猫にとっては恐怖を伴うことも一般的です。負担なく検査を進めるため、タオルで顔や体を覆ってあげたり、それでも怖がってしまう子には不安を和らげるお薬を使うこともできます。 - 猫の心筋症治療
- 心筋症を治すことはできませんが、進行を和らげる内服薬での治療が主体となります。初期の場合は経過観察のみか、予防的な投薬を実施します。進行してうっ血性心不全を起こした場合は、利尿薬や強心剤、降圧剤、抗血栓薬などで負担を和らげる治療が必要となります。